【相談事例】彼氏(彼女)や夫(妻)のことを疑うのを止められないのはなぜ?

 恋愛や結婚生活においてパートナーのことを信じたいのに、根拠もなく「浮気をしているのではないか」、「自分のことを本当は嫌っているのではないか」と疑ってしまって関係がぎこちなくなるというお話をうかがうことがあります。

 そして、疑いたくないし疑う根拠もないはずなのに、一度疑い始めると止められないというパターンに陥り悩みが深くなってしまうことが多いようです。

 こうした悩みの背景にある共通点として多いのは、何らかのトラウマによって「自分は見捨てられる」という考え方が心のどこかに根付いてしまっていることです。

 今回は、現在のパートナーとの関係に対する過去のトラウマや見捨てられ不安の影響について、それらを克服された事例に基づいて解説したいと思います。

 なお、事例はいくつかの実例を組み合わせた架空の事例です。

 

目次

1.【お困りごとと経緯】

2.【心理療法・カウンセリングの経過】

3.【感想】

4.【まとめと解説】

 

1.【お困りごとと経緯】

 20代女性の方。交際して数年のパートナーに対して、交際の年月が長くなるにつれて浮気を疑いたくないのにどうしても疑ってしまうようになった。

 疑いたくないし、疑う根拠もないとわかっているのに、相手のちょっとした素振りや態度で気になり始めると疑ってしまい、確認しては嫌がられる。

 確認しても安心できないが、我慢して確認せずにいても疑心暗鬼で別の形で苦しくなる。

 結婚についても話し合うことがあったが、パートナーから「度々疑われることが嫌だから、結婚は考え直したい」と言われてしまった。

 別れたわけではないものの、自分でもこのままだと彼のことを嫌な気持ちにさせてしまうし、仮に結婚してもそのうち愛想をつかされるのではないかと思う。

 自分なりに工夫したり、友達に相談もすると一時的に抑えられるが、気づいたら疑う気持ちを抑えられなくなる。

 

2.【心理療法・カウンセリングの経過】

 以上の経緯から心理療法・カウンセリングを開始することとなりました。

 これまでも同じようなお悩みがなかったかうかがうと、以前の恋愛でも、親密になるほどパートナーに対して浮気を疑う気持ちが強くなり、別れてしまったことがあったようです。

 ご本人様の知る限り実際浮気されたことはなく、好きになるほど疑う気持ちが強くなるのは、ヤキモチや嫉妬心のせいと思われていたようです。

 ヤキモチや嫉妬心についてさらにうかがっていくと、恋愛に限らず心のどこかに常に「自分は見捨てられる」という不安があるとのことでした。

 ただ、通常の友人関係や知人関係の中では「自分は見捨てられる」という不安が強くなることはなく、表立ったトラブルもほとんどありませんでした。

 そこで生い立ちを確認すると、「自分は見捨てられる」と最初に思ったのは、子どもの頃の家庭内であった出来事がきっかけであることがわかりました。

 その出来事とは子どもの頃両親の関係が悪く、母親から「私たちは捨てられる」と度々聞かされていたことでした。

 この他にも 母親から父親の悪口を聞くことが多く、いつしか自分も「人に見捨てられる」と思うようになったようです。

 今現在のパートナーとの関係においても、子どもの頃の出来事によって生まれた「見捨てられる」という不安が影響していることが考えられました。

 そこで、トラウマを克服するための方法としてEMDRを実施していくこととなりました。

 EMDRによってトラウマがケアされていくプロセスで、「母と自分を同一化して、母が感じていた不安と自分の不安が混ざっていたが、母と自分は違う」と思えるようになっていきました。

 次第に彼を疑う気持ちがかなり和らぎ、「彼からもまた結婚について話し合いたいと言われるようになった」という段階に進んだところで終了に至りました。

 

3.【感想】

「まるで憑き物がとれたように、彼に対する不安や疑う気持ちがなくなりました。母が感じていた不安をずっと自分のことのように抱えてきたのが原因だったのかと思います。

 母も辛かったと思いますが、自分と母は違う人生を歩んでいると実感できました」

 

4.【まとめと解説】

 今回の事例のようにパートナーとの関係が親密になるほど、根拠のない不安や疑念が湧いてきて関係がうまくいかなくなるというお話はよくうかがいます。

 関係が深まるほど信頼感が増すことももちろんありますが、逆の場合、過去のトラウマが影響している可能性も考えられます。

 今回の事例では、ご本人様が直接裏切られたわけではなかったものの、母親が体験したことと自分のあり方が重なっていたことによって生まれた不安感という捉え方もできます。

 自分が直接体験しなかったとしても、親密な誰かが傷ついた姿を見て自分のことのように傷つき、トラウマとしてその後の自分に影響することも多くあります。

 また、今回は家庭内の出来事がトラウマになっている事例を取り上げましたが、恋愛関係に影響するトラウマは家庭内の出来事だけとは限りません。

 過去の失恋や信頼していた人から裏切られたこと、いじめの被害体験なども「人を信じたら自分は見捨てられる」という考えを生み、パートナーに対する疑念につながることもあります。

 もし恋愛や結婚生活でパートナーに対して、根拠もなく疑ってしまう気持ちで悩まれているようでしたら、過去の体験の何かがトラウマになっているのかもしれません。

 そして、過去のトラウマを克服することでパートナーを信じる気持ちを自然に持てるようになる可能性を広げることができるでしょう。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 なお、過去の失恋によるトラウマに関しては、【相談事例】失恋によるトラウマの克服というページで解説しております。

 あわせてお読みいただけたら幸いです。