恐怖症へのカウンセリング【第二部】恐怖症の特徴

 恐怖という感情によって自分や大切な人の安全を守ろうとする意識が高まるため、恐怖感情は危険を察知するための重要なアラーム機能と言えます。

 ですが、そのアラーム機能が過剰に作動すると日常の行動が大幅に制限され支障になってしまうこともあります。

 過剰な恐怖感情が作動する状態は、限局性恐怖症という精神疾患の可能性もあります。

 前回第一部では、限局性恐怖症のタイプを大きく5つに分けて解説させていただきました。

 今回第二部では、限局性恐怖症のタイプの違いに関わらず共通する特徴と、代表的な治療方法について解説したいと思います。

目次

1.直面・想像による恐怖の喚起

2.回避

3.般化(はんか)

4.恐怖への違和感(専門的には自我違和性)

5.身体・神経系の反応

6.代表的な治療方法 

 6-1.薬物療法

 6-2.心理療法・カウンセリング

7.まとめ

1.直面、想像による恐怖の喚起

 一番の特徴は、恐怖を引き起こす事物や状況に実際に直面すると怖くなることです。

 ですが、実際に直面した時だけではなく、その場面に直面することが予測された場合や、その場面に直面することを想像しただけでも怖くなってしまう、ということもあります。

 

2.回避

 実際に直面すること、あるいは直面することを想像しただけでも恐怖が引き起こされれば、そうした恐怖を喚起する事物や状況を避けたくなるのはある意味で自然な反応です。

 恐怖を喚起する対象を避けようとすることは、回避と呼ばれます。

 回避は一時的には役に立ちますが、回避を繰り返していると余計恐怖感が強くなりやすくなるのも特徴の一つです。

3.般化(はんか)

 恐怖を引き起こす対象を回避していると、だんだんと恐怖の対象が広がったり、増えたりします。

 これを般化といいます。

 例えば、最初は電車に乗ることだけが怖かったのに、次第に会議の場面も怖くなってしまったという場合です。

 また恐怖の対象とは、客観的には関係しないはずものが心の中で関係し合ってしまうことも般化と考えられます。

 例えば、白い犬に対する恐怖が強く、白い犬を回避するうちに白色のもの、白紙や白い壁も怖くなる、という具合です。

 客観的には、紙や壁と犬はそれぞれ直接的な関係はないはずですが、「白い」という要素だけで心の中で関係してしまって怖くなってしまうということもあります。

 

4.恐怖への違和感(専門的には自我違和性)

 恐怖感が強く出ることに対して、怖くなるのが自分でも頭では変だなと思っているものの、どうしようもできないことです。

 何とかしようとして、自分に対して「怖くない」など強く言い聞かせるほど、恐怖感が高まるというお話もよくうかがいます。

5.身体・神経系の反応

 恐怖の対象に直面すると、動悸や過呼吸、発汗、貧血など体の反応も起こることです。

 

6.代表的な治療方法

 以上の5点が、恐怖症の種類の違いに関わらず比較的多くうかがう共通する特徴です。

 全てが当てはまる場合もあれば、一部の項目は当てはまらないという場合もあります。

 全てが当てはまる場合、例えば「見ると怖くなるから見ないようにしているうちに、怖いものが増えていって、自分でも変だなと思うものの、体調が悪くなる」という感じで体験されます。

 こうした恐怖症への治療方法として、薬物療法と心理療法・カウンセリングの二つが代表的です。

 

6-1.薬物療法

 医師による投薬治療です。

 その方の病状や主治医の診断にもよりますが、比較的多く耳にする例では抗うつ薬や抗不安薬による治療です。

 薬物療法は、素早く効果が発揮されることも多いので費用対効果という面では有用なことが多いです。

 特に動悸や過呼吸など身体・神経系の反応に対しては、効果が実感されることも多くあります。

 薬物療法だけで恐怖症のほとんどが改善されたという場合もありますが、あと一歩のところで改善しきれない、あるいは「頓服薬を持ち歩いていないと不安」というお話もよく聞きます。

 そのため、人によっては数年以上服薬し続けているという方もいます。

 その場合は、心理療法・カウンセリングの併用が望ましいです。

6-2.心理療法・カウンセリング

 薬物療法は症状の緩和には有用なことが多いですが、根本的な克服を目指すためには、やはり心理療法・カウンセリングが大切です。

 代表的な心理療法として、例えば眼球運動による脱感作と再処理療法(EMDR)、認知行動療法、または認知行動理論に基づいた暴露療法、精神分析的心理療法、があります。

 これらの他にも心理療法の種類はたくさんありますが、基本的にはいきなり実施するのではなく事前の準備を整えてから導入することが大切です。

 事前の準備とは、恐怖症のメカニズムについてお伝えしつつ、その方の状態像を把握し共有することです。

 またどのような方法でも、少なからず恐怖の対象に心の中で触れることもあるため、心の準備や十分な安全感を整えることも大切になります。

 いきなり始めると、思いのほか恐怖感を強く感じて続けるのがあまりにも苦痛になってしまう、ということもあるからです。

 詳細については、次回第3部で解説させていただきます。

7.まとめ

 今回は限局性恐怖症のタイプに関わらず共通する特徴と、代表的な治療方法について解説させていただきました。

 タイプの違いに関わらず共通する特徴は、(1)直面、想像による恐怖、(2)回避、(3)般化(はんか)(4)違和感(専門的には自我違和性)(5)身体・神経系の反応、の5つです。

 「自分のこの恐怖感は限局性恐怖症かな」と思われた場合は、これら5つの特徴をもとに考えていただけると良いかもしれません。

 5つの特徴のうち1つ、または複数で強く感じられる場合は、限局性恐怖症の可能性も考えられます。

 治療方法としては、薬物療法と心理療法・カウンセリングがあります。

 服薬によって概ね改善されればそれに越したことはありませんが、改善しきれない場合や頓服薬がないと不安が消えない、といった場合は心理療法・カウンセリングの併用が有効です。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 次回第三部では、心理療法・カウンセリングを本格的に開始する前に大切なことと同時に、EMDR、認知行動療法・暴露療法、精神分析的心理療法のそれぞれについて解説いたします。