はじめに
「他人の些細な言動で、まるで自分が全否定されたように感じる」
「恋人ができても、いつも不安で関係を壊してしまう」
「頑張って期待に応えようとするけれど、いつも心が満たされない」
というお悩みはありませんか?
こうしたお悩みの背景には、「自分には価値がない」という感覚など、「自己肯定感」を低くさせてしまう要素が絡まっており、その起源を辿ると、幼少期の親子関係における「愛着」の課題に由来することが多くあります。
この記事では、その生きづらさの根本にある「自分には価値がない」という感覚など、「自己肯定感」を低くさせてしまう要素と、幼少期の親子関係で築かれる「愛着」との深い繋がりを、心理学的な観点から丁寧に解説します。
あなたが長年抱えてきた苦しみの正体を理解し、自分を責める日々から抜け出すための第一歩のためのささやかなヒントになっていただけましたら幸いです。
そもそも自己肯定感とは?- 「これでいい」と思える無条件の感覚
まず、「自己肯定感」とは何かを整理しましょう。
細かな定義はいろいろありますが、大まかに捉えやすくお伝えするとしたら、自己肯定感とは、「自分はありのままで価値がある」と、無条件に自分を肯定できる感覚のことです。
これは、テストで良い点を取ったから、仕事で成果を出したから、といった「条件」によって得られるものと区別されるものです。
よく似た言葉に「自己効力感(自分はできる)」や「プライド(自分は優れている)」がありますが、これらとは異なります。自己肯定感は、成功している自分も、失敗して落ち込んでいる自分も、等しく「それはそれとして」と自分を捉えられる、心の土台となる感覚です。「自己肯定感が低い」と感じていると、評価の軸が他人のものさしになりがちとなりますので、他人の評価に一喜一憂したり、自分の価値を自分自身で認めることが難しくなったりします。
また、何かうまくいかないことがあると、「自分がダメだからだ」「自分の能力が低いからだ」と、何らかの条件をもとにして自分自身を過剰に責めてしまいがちになります。そして次第に「人が求めることや認めることの何かを達成しなければ、自分には価値がない」という思考につながりやすくなります。
もし、「何かを達成すれば、自分に価値を認められる」、あるいは「何かを達成したから自分には価値がある」という思いが強いとしたら、それは本来の自己肯定感とは少し違うものかもしれません。
生きづらさの根っこにある、幼少期の「愛着」とは
では、なぜ「何らかの条件を満たさないと自分には価値がない」という考えが強まってしまうのでしょうか。
その原因を辿ると、多くの場合、幼少期に親(または主な養育者)との間で築かれる心の絆、「愛着(アタッチメント)」の課題に行き着きます。
「愛着」とは、乳幼児が特定の養育者に対して抱く、情愛的な結びつきのことです。この時期にどのような絆が築かれたかが、その後の人生における「自己肯定感」や「対人関係のパターン」に、非常に大きな影響を与えることが心理学の研究でわかっています。
あなたが抱える「自己肯定感の低さ」や「自分に価値がない」という感覚は、個人の欠点ではなく、この「愛着」という、誰もが経験する人間関係の原点に深く関わっている可能性が高いのです。
なぜ?自己肯定感が「愛着」に左右される心理的メカニズム
幼少期の「愛着」が、大人の「自己肯定感」にどう繋がるのか。その心のメカニズムを見ていきましょう。
心の土台となる「心の安全基地」の重要性
子どもは、泣いたり、怖がったりしたときに、親のもとへ駆け寄ります。そのとき、親が「どうしたの?」「怖かったね」と優しく受け止め、守ってくれます。
こうした経験を繰り返すことで、子どもは「自分には、何かあっても駆け込める場所がある」「自分は守られている」という安心感を育みます。
絶対的な養育者はいないので絶対的なものではありませんが、ほどよく応答してもらえる、守られている、という安心感、また、安心できる存在や場所のことを、心理学では総じて「心の安全基地(Secure Base)」と呼びます。
安全基地がある子どもは、「きっと守ってもらえる」というほどよい信頼感があるため、安心して外の世界へ冒険に出かけ、様々なことに挑戦できます。この「守られている」「助けを求めれば応えてもらえる」という原体験こそが、「自分はありのままで価値がある」という自己肯定感の土台となりうるのです。
その後の人間関係の"設計図"となる「内的作業モデル」
「心の安全基地」での経験を通して、私たちは無意識のうちに、自分と他者に対する「信念」を作り上げます。これを「内的作業モデル(Internal Working Model)」と呼びます。
これは、対人関係におけるいわば「設計図」のようなものとなりえます。
- 安定した安全基地があった場合:
- 「自分は愛される価値がある」
- 「他者は信頼でき、助けになってくれる」
というポジティブな設計図が作られます。
- 安全基地が不安定だった場合:
- 「自分は愛される価値がない(だから見捨てられる)」
- 「他者は信頼できず、いつか去っていく」
というネガティブな設計図が作られやすくなります。
この設計図は、大人になってからも無意識に持ち続けられ、恋愛、友人関係、職場の人間関係など、あらゆる場面で「どのような関係を築くか」というパターンに影響を与え続けます。
「安全基地」の不在が、否定的な自己イメージを育んでしまう
もし、幼少期に親が感情的に不安定だったり、多忙すぎて子どものシグナルに応えられなかったりした場合、「心の安全基地」がうまく構築されにくく、また多少「心の安全基地」を持つことができたとしても機能しにくくなります。
子どもは、「泣いても無駄だ」「助けを求めても応えてもらえない」あるいは「良い子にしていないと、親の機嫌が悪くなる」というような感じ方が蓄積されることになります。
それでも、子どもはなんとかその環境に適応しようとしますが、「自分は価値がない存在なんだ」「ありのままの自分を出したら、見捨てられてしまう」「人(親)の期待に応え続けなければ、ここにいてはいけないんだ」という思いがどうしても残ってしまいます。
それらは否定的な「内的作業モデル」が反映された思いですが、こうした否定的な「内的作業モデル」を形成すること(=自己肯定感を低く保つこと)は、当時のあなたにとって、不安定な環境を生き抜くために必要だった、精一杯の「適応戦略」(工夫)とも言えます。
そのため、例えば「努力が足りないから」、「気持ちの持ち方がうまくいかないから」といった問題ではありません。
愛着スタイルの一つ、不安型とは?
愛着のスタイルはいくつかありますが、特に「自己肯定感が低い」と感じ、「自分には価値がない」という感覚に悩む方は、「不安型愛着スタイル」の傾向を持っていることがあります。
これは、上述したような幼少期に親の反応が一貫せず、安心と不安の間で揺れ動いた経験(安全基地が不安定だった経験)と関連が深いとされています。
常に心を支配する「見捨てられ不安」という恐怖
不安型愛着スタイルの根底には、常に「見捨てられ不安」という強い恐怖があります。恋愛関係の中では例えば下記のようなものがあります。
- 恋人からのLINEの返信が少しでも遅いと、「何か悪いことをしただろうか」「嫌われたんじゃないか」とパニックになる。
- 相手の表情や声のトーンが少し冷たいだけで、「もうダメだ」と最悪の事態を想像してしまう。
- 「本当に私のこと、好き?」と、何度も愛情を確認しないと安心できない。
これらの行動は、「見捨てられるのではないか」という強烈な不安から来ています。幼少期に「ありのままでは受け入れられないかもしれない」という不安を抱えていた「内的作業モデル」が、大人になった今、目の前の大切な人に投影されているとも言えます。
自分の価値を"他人"に委ねてしまう危うさ
「見捨てられ不安」が強いと、自分の価値を「相手からどう思われるか」という他人の評価に委ねてしまいます。
「相手に嫌われないこと」が最優先課題になるため、
- 無理をして相手の要求に応えようと、過剰に尽くしてしまう。
- 自分の意見や「NO」が言えず、いつも我慢してしまう。
- 相手の顔色を伺い、常に「良い子」「都合のいい人」を演じてしまう。
こうして他者からの承認や評価によって、一時的に「自分には価値がある」と感じられることもありますが、これは「条件付きの自己肯定感」であり、非常に不安定で脆いものです。相手の機嫌ひとつで、あなたの価値がゼロになってしまうかのような錯覚に陥るからです。なお、承認や評価を得ても自分に価値があると思えないこともありますが、原理は同じです。
無意識に繰り返す「期待→不安→試し行動→破局」の負のループ
こうした不安定な愛着スタイルは、特定の恋愛パターンを繰り返す原因となります。ある事例(Aさん・仮名)を見てみましょう。よくうかがうお話を組み合わせた架空の事例です。
Aさんは、新しい恋人ができると「今度こそ、私を分かってくれるかも」と強く期待します。最初のうちは、相手に尽くすことで「必要とされている」と感じ、幸せを実感します。
しかし、関係が少し安定してくると、「見捨てられ不安」が顔を出します。彼からの連絡が少し途絶えただけで、「他に好きな人ができたのでは?」と不安に襲われるのです。
不安に耐えきれなくなったAさんは、「なんで連絡くれないの?」「私のこと、もう好きじゃなくなったの?」と彼を問い詰めてしまいます(試し行動)。
彼は最初こそ「そんなことないよ」と安心させてくれますが、何度も繰り返されるうちに疲弊し、次第に距離を置くようになってしまいます。
そして、彼が本当に去ってしまうと、Aさんは「ほら、やっぱり私は愛されないんだ」「私には価値がないから見捨てられるんだ」という絶望感に包まれます。
この「期待 → 不安 → 試し行動 → 破局 → 信念の強化」という負のループを、彼女は無意識に繰り返してしまっていたのです。
もちろん、細かな違いは個々でありますが、お聴きするお話に共通した構造としてよくうかがわれます。
もう繰り返さない。安心できる関係性を築くための第一歩
もし、Aさんのような経験に心当たりがあるとしても、自分を責める必要はありません。そのパターンから抜け出す道はあります。
何よりもまず「性格や努力の問題ではない」と知ること
最も重要な第一歩は、「これまでうまくいかなかったのは、性格や努力の問題ではない」と知ることです。
あなたの「自己肯定感の低さ」や「自分には価値がない」という感覚、そして恋愛をはじめとした人間関係で繰り返してきた失敗のパターンは、あなたの「性格」や「努力不足」が原因なのではなく、幼少期に形成された「愛着」という心のメカニズムから考えてみることも大切になります。
原因がわからなければ、「なんだかわからないけど、自分のことだから自分が悪い」という方向で考えがちになります。しかし、「愛着」という観点をもつと、客観的に問題を捉え直し、自分を責めるのをやめるための大きな力になります。
セルフケアでできること
自分自身でできることもあります。
例えば、自分がどんな時に不安になるのか、どんな感情を抱いているのかをノートに書き出してみることは、自分のパターンを客観視するのに役立ちます。
また、小さな「できた」体験(例:朝、決まった時間に起きられた、美味しいコーヒーを淹れられた)を記録することも、自己肯定感を育む小さな一歩になりえます。
しかし、こうしたセルフケアが上手くできなくても、「やっぱり私はダメだ」と自分を責めないでください。 幼少期から何十年もかけて形成された「内的作業モデル」は、非常に根深く、強力です。一人で変えようとしてもうまくいかないのも不思議ではありません。
専門家との対話で「安全感」を再体験する
根深い愛着の問題や、それに伴う「自己肯定感の低さ」を根本から見直していくためには、専門家のサポートも有効です。
カウンセリングは、過去に得ることが難しかった「心の安全基地」を、今ここで再体験する場になりえます。
カウンセリングでは、自傷他害のリスクがなければ、お話の内容について良し悪しで判断することなくうかがいます。そうした一定の価値判断のない中でお話を進めていくと、ありのままの自分を表現することが少しずつできるようになります。それに伴って、様々な考え気持ち、感情、記憶などについて、ご自身で安全に心の機微に触れられるようになります。
こうしたプロセスを積み重ねていくと、これまでの否定的な「内的作業モデル(設計図)」が、「自分は愛されていい」「他者は信頼できる」というような、より温かく、安心できるものへと、安全に書き換えられていく(あるいは加筆されていく)プロセスになりえます。
(愛着障害の克服法については、こちらの記事もご覧ください。)
まとめ:新しい未来に向けて
「自分には価値がない」という痛切な感覚。それは、あなたが幼少期に、不安定な環境の中で必死に生き抜いてきた「証」とも言えます。
この記事でお伝えしてきたように、その苦しみは、あなたの生まれ持った性格や価値が決まっているからではなく、「愛着」という、心理学的に説明できる現象に根差しています。
その原因を知ることは、決して「親のせい」にするというような、誰かを責めるためのものではありません。あなた自身が、長年の自己非難から解放され、「自分だけが間違い続けたわけではない」と安堵し、新しい一歩を踏み出すための力にするためです。
もし、過去の経験がフラッシュバックのように蘇る(トラウマ)など、お悩みが深い場合は、EMDR(眼球運動等による脱感作及び再処理法)のような、トラウマに特化した専門的なアプローチが、過去の傷を癒し未来を書き換えるための具体的な希望となることもあります。
秋葉原心理オフィスMAYでは、愛着の問題や自己肯定感の低さに悩む方々のための、専門的なカウンセリングを提供しています。
一人で向き合うことも大切ですが、専門家への相談を活用することも選択肢の一つとしてお考えいただけますと幸いです。
▼初回相談のご予約はこちら
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(オフィス:秋葉原心理オフィスMAY 〒101-0025 東京都千代田区神田佐久間町)
監修者紹介
猪野 哲(いの さとし) 臨床心理士・公認心理師 / 秋葉原心理オフィスMAY 代表 (プロフィールはこちら:https://kokoronocure.com/profile/)
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