恐怖という感情は、危険から自分や大切な人の心身を守るために発動する重要な心の反応です。
危険を予期する、察知するという意味で恐怖感はいわばアラームのような機能を果たしています。
ですが、様々なきっかけでそのアラームが過敏に作動する状態になってしまうことがあります。
すると、客観的には危険ではないはずの事物や状況に対して強い恐怖を感じるようになり、日常の行動が制限されるなど支障になることもあります。
DSM-Ⅴという精神疾患に関する診断基準では、こうした過剰な恐怖感について限局性恐怖症という精神疾患の一つとして定義されています。
限局性恐怖症に対しては、薬物療法も有効ですが、心理療法・カウンセリングも重要な役割を果たします。
そこで限局性恐怖症について、三部にわけて解説したいと思います。
限局性恐怖症といっても様々な種類があります。
今回第一部では、限局性恐怖症の種類について5つにわけてお伝えしたいと思います。
次回第二部では限局性恐怖症の特徴と大まかな治療方法について、第三部では限局性恐怖症となってしまう要因と心理療法についてお伝えいたします。
1.生物に対する恐怖感
身近なところで多い例は、ゴキブリや毛虫、芋虫、ムカデ、蜘蛛などに対して強い恐怖感を感じるタイプです。
もちろん、これらの虫に対しては苦手な人の方が多いでしょう。
ですが、その恐怖心が過剰にあると、例えば「道端にいたらどうしよう」と考えて安心して道を歩けなかったり、「家にいたらどうしよう」という気持ちが常にあって気が休まらないという場合は生活に支障が出てしまいます。
虫だけではなく、犬や猫、鳩やスズメに対する過剰な恐怖心を持ってしまう場合もあります。
こうした動物は市街地でもよく目にするため、見かける度に恐怖感が湧き、恐怖感だけではなく過呼吸や動悸などの反応に悩まれる例も多いです。
2.状況に対する恐怖感
2-1.高所や閉所に対する恐怖感
ビルの高い階に行けない、エレベーターに乗れない、飛行機や新幹線に乗れない、という例です。また、人ごみや橋の上がたまらなく怖いという例もあります。
無理をしてそうした場面に行くと、過呼吸や動悸、過剰な発汗とともに、苦しい感情が生じてしまいます。
苦しい状態になってもすぐにその場から離れられることがわかっていればかろうじて行けても、すぐに離れられない場面には怖くて行けないというお話をよくうかがいます。
2-2.対人場面での恐怖感
例えば、人前で発表や報告が必要な場面に対して恐怖感が強く出てしまうことや、そうした場面ではなくても集団場面に入ると、悪く思われているではないかという考えによって恐怖感が生じる例です。
恐怖感が生じると、言葉が詰まってうまく説明できなかったり、人との関わりが苦痛になってしまったりします。
3.医療・傷病・死への恐怖感
例えば、注射がひどく怖くて受けられない、病気やケガを負うことが怖くてちょっとした切り傷でも激しく動揺する、怪我や病気にならないよう過剰に警戒してしまうという例です。
また、「自分が人前で嘔吐してしまうのではないか」という嘔吐恐怖や腹部の不調などでオナラが漏れることが過度に怖い、という例もあります。
嘔吐恐怖は自分だけではなく、他の誰かが嘔吐しているのを見るだけでも強い恐怖感を持つことがあります。
誰しも健康に対する不安は大なり小なりありますし、注射が好きな人も少ないかと思われます。
ですが、過剰になると食事などでかなりの制限を要する、必要な医療を受けられない、逆にちょっとしたことで医療機関に受診せずにはいられない、などによって生活しづらくなってしまうこともあります。
4.自然現象・火事への恐怖感
地震や雷、火事への過剰な恐怖感をもつタイプです。
特に日本では地震による被害が多いためいざという時への備えは必要ですし、また火器の扱いには十分な警戒が必要です。
ですが、四六時中そうした事態を想定していないと気が休まらないとしたら、おちおち日常のことをしている場合ではなくなります。
雷に関しては鳴りはじめると、耳を塞ぎながら部屋の隅にうずくまって何もできなくなるというお話もうかがいます。
5.その他のタイプ
特定の草木や花の形、ピエロなどのキャラクターに不気味さとともに強い恐怖感を持ってしまうというお話もうかがいます。
また、先端や尖がったものがひどく怖い、自分の臭いが怖い、他人からの視線、あるいは他人に対する自分の視線が迷惑をかけているようで怖い、インターネットやテレビで目にした凄惨な画像が怖い、というお話もよくうかがいます。
6.まとめ
今回は限局性恐怖症の種類ついて、5つに分けて解説させていただきました。
5つの種類とは、(1)生物に対する恐怖感、(2)状況に対する恐怖感、(3)医療・傷病・死への恐怖感、(4)自然現象・火事への恐怖感、(5)その他のタイプです。
恐怖の対象が一つの場合もあれば、複数にわたっている場合もあります。
誰しも大なり小なり苦手なものや怖いものがあっても不思議ではありません。
また、「自分のこの恐怖感は限局性恐怖症かな」と思われることもあるかもしれません。
その場合、共通する特徴をもとに考えていただければと思います。
共通する特徴とは、恐怖対象や恐怖感に対する(1)直面、想像による恐怖、(2)回避、(3)般化(はんか)、(4)違和感(専門的には自我違和性)、(5)身体・神経系の反応、の5つです。
これらのうちのどれかが強く出ており日常生活に支障が出ている場合は、限局性恐怖症の可能性も考えられます。
詳しくは次回第二部でお伝えしたいと思います。
いずれにしても、こうした特徴があり服薬だけでは改善しきれないという場合は、心理療法・カウンセリングが有効であることも多いため、ご検討いただけると改善の可能性が高まります。
最後までお読みいただきありがとうございました。