トラウマケアのための心理療法③【比較的新しい心理療法】

 トラウマによる心の悩みをケアするためには、お薬による治療が有効なこともありますが、根本的な改善を目指すためには心理療法・カウンセリングが必要になることもあります。

 トラウマケアのための心理療法は、代表的とされる技法の他に数多くの方法が提唱されています。

 前回トラウマケアのための心理療法②では、代表的な技法としてEMDR、持続エクスポージャー法、認知処理療法の3つについて概説いたしました。

 今回は、昨今注目されている比較的新しい心理療法として、ソマティック・エクスペリエンシング、ブレインスポッティング、ホログラフィートークの3つについて概説したいと思います。

 

目次

1.ソマティック・エクスペリエンシング

2.ブレインスポッティング

3.ホログラフィートーク

4.まとめ

 

1.ソマティック・エクスペリエンシング

 ソマティック・エクスペリエンシング(Somatic Experiencing)は、アメリカのピーター・ラヴィーン博士によって開発された心理療法です。

 アルファベットの頭文字をとってSE(療法)と略されることがあります。

 SE(療法)は、日本語に直訳すると「身体の経験(療法)」となり、身体感覚を治療のベースにしています。

 そのため、通常のカウンセリングのように言葉で考えて分析したり、考え方を見直したりすることはしませず、身体で感じることに優しく注意を向けることを中心に治療が進んでいきます。

 通常、トラウマになるような衝撃的な体験をすると、その際に生じた身体の感覚が閉じ込められてしまうことで様々な心の悩みが生じてしまいます。

 そこで、SE(療法)では、トラウマに関わる閉じ込められた身体感覚の解放が一つの目標とされています。

 ですが、いきなりトラウマに関わる身体感覚ばかりに注意を向けるわけではありません。

 カウンセリング中に感じられる穏やかな身体感覚に注意を向けることを中心に、ゆっくり少しずつタイミングを見ながらトラウマに関わる身体感覚に注意を向けていきます。

 トラウマの影響によって過剰に反応しやすい身体感覚もありますが、身体感覚の中には過剰な反応をしていない、あるいは穏やかな部分もあります。

 こうした過剰な反応をしていない、あるいは穏やかな部分は自己回復力を引き出すためのリソースの一つと考えられています。

 SE(療法)は、身体感覚の中でもリソースとなる身体感覚を大切にしながら安全に、少しずつトラウマに関わる身体感覚の解放を促していくことで、心の悩みの改善を図って行く方法です。

 

2.ブレインスポッティング

 ブレインスポッティングは、アメリカのデイビッド・グランド博士によって開発されました。

 EMDRと上記SE(療法)の考え方が取り入れられています。

 ブレインスポッティングは、一言で言うと視線の方向を活用する心理療法です。

 視線の方向によってトラウマをはじめとした心の悩みに対する捉え方や感じ方、身体感覚が異なり、また自己治癒力を引き出しやすいポイントがあります。

 そこでブレインスポッティングでは、まず心の悩みやそれに伴う感情を浮かべ、同時に身体感覚を確認し、視線の方向を調整します。

 視線の方向の調整の仕方は大きく分けて、視線の方向を一点に決めて固定する方法もあれば、EMDRのように視線をゆっくり動かす方法があります。

 視線の方向を一点に決める場合、瞬きや顔の筋肉の動きなど生理学的な反射を手がかりにすることもあれば、受ける方の感じ方を手がかりに決めることもあります。

 細かな技法はこの他にもあります。

 いずれにせよ視線の方向による心の悩みに対する捉え方や感情、身体感覚の違いを確認したら、心に浮かぶことや身体で感じることを止めたり、なくそうとせずにただ優しく注意を向けてもらいます。

 ただ優しく注意を向けるというのは、そうすることで心の自己治癒力が自然と引き出されるためです。

 ブレインスポッティングを実施中、カウンセラーは受ける方が安心できるよう、また受ける方の体験を妨げないよう時折声をかけながら、受ける方の治癒プロセスをサポートします。

 なお、上記SE(療法)の考え方も取り入れられているため、心の悩みに対するネガティブな身体感覚だけではなく、穏やかな身体感覚もリソースとして重視しています。

 

3.ホログラフィートーク

 ホログラフィートークは、日本の心理臨床家である峯輝子氏によって開発された心理療法です。

 通常、心の悩みに伴う感情や身体感覚(症状)は、心の悩みと同様問題としてみなされやすい傾向があります。

 ですが、ホログラフィートークでは、心の悩みに伴う感情や身体感覚(症状)を自己回復力の源として捉えています。

 そのためこの方法では、まずご本人様がトラウマをはじめとした心の悩みとそれに伴う感情、また身体感覚(症状)に、優しく、ゆっくりと注意を向けられるようガイドします。

 そして、感情や身体感覚(症状)に優しく、ゆっくりと注意を向けてもらうことで、感情や身体感覚(症状)の意味を読み取り、心の悩みを改善し自己回復するプロセスをサポートします。

 上記SE療法やブレインスポッティングでも心の悩みに伴う身体感覚をベースにしています。

 ですがホログラフィートークは感情や身体感覚(症状)を起点としつつ、普段とは異なる意識状態へ誘導すること、加えてイメージを活用することで、心の悩みの起源を辿る点が特徴的です。

 心の悩みの起源を辿ることは退行を意味します。

 退行を通して、現在の自分が過去の自分にアプローチし自己回復に必要なコミュニケーションを図ることができるよう支援することで、心の悩みの改善を図ります。

 

4.まとめ

 今回はトラウマケアのための比較的新しい心理療法について、ソマティック・エクスペリエンシング、ブレインスポッティング、ホログラフィートークの3つを大まかに解説しました。

 もちろん、今回と前回お伝えした方法以外にもトラウマケアのための心理療法は数多く提唱されています。

 どのような方法であっても長所や短所、また、人によって合う、合わないということもあります。

 唯一万能な方法があるわけではありませんが、心理療法を知ることでトラウマへの理解が少しずつ深まり、改善に向けて必要なヒントが少しずつ見えてくることもあります。

 心理療法の全てを網羅することはできませんが今後も学びと実践を深めて、読者の方にとって少しでもヒントにつながるような情報をお伝えしたいと思います。