トラウマケアのための心理療法②【代表的な技法】

 トラウマ治療では、服薬治療も大切になる場合もありますが、根本的な改善のためには心理療法・カウンセリングが必要になることもあります。

 トラウマへの心理療法・カウンセリングは、数多くの方法が提唱されていますし日進月歩で研究と実践が重ねられています。

 人によって合う方法もあれば合わない方法もあるので、絶対的に有効な方法があるわけではありません。

 とはいえ、トラウマ治療の具体的な方法や特徴を知ることは、トラウマケアの方向性を考えていくための手がかりになりえます。

 そこで今回は、有効とされている代表的な心理療法として、EMDR、持続エクスポージャー療法、認知処理療法の3つを簡単にご紹介したいと思います。

目次 

1.EMDR

2.持続エクスポージャー療法

3.認知処理療法

4.まとめ

1.EMDR

 EMDRとはEye Movement Desensitization and Reprocessingの大文字の部分をとった略称です。

 日本語では、眼球運動による脱感作と再処理療法と訳されます。

 「眼球運動」は眼を動かすことというイメージがつくかもしれませんが、「脱感作」や「再処理」は馴染みがないかもしれません。

 平たく言えば、「脱感作」とは、必要以上に過敏に感じてしまう状態から脱する、というイメージです。

 また、「再処理」とは、体の機能で喩えれば消化不良になっているものの消化を再び促す、というイメージです。

 具体的な方法としては、トラウマとなった出来事やイメージと、それに付随する認知、感情、身体感覚に意識を向けつつ、一定のリズムで左右に眼を動かします(眼球運動)

 眼球運動は、基本的には1回あたり25往復程度ですが、その方の状態を踏まえながら往復数を増やすこともあります。

 眼球運動を一定数往復した後、心や体で気がつくことを確認します。

 眼球運動の実施→気づくことの確認、という流れをカウンセリングの時間内でできるかぎり多く実施していきます。

 この流れを重ねていくと、様々な心身の気づきを経ながらトラウマ記憶の処理が進行していきます。

 結果として、例えばトラウマ記憶を思い出す頻度が減る、思い出してもその影響を受けない、自己否定感が和らぐなど、トラウマによって生じていた悩みが緩和していきます。

 それに伴って、過去ではなく現在や未来に目を向けることが可能になります。

 左右交互の一定のリズムであれば、眼球運動でなければいけないわけではありません。

 耳元で小さな音を聴いてもらうことや手の甲への軽いタッピングなどの進め方もあります。

 なお、トラウマ記憶や気がつくことを全て話す必要はないので、話しにくいことを細かく話すことなく進められることがメリットの一つです。

2.持続エクスポージャー療法

 エクスポージャーとは、日本語で暴露と訳され、それまで避けていたことを避けずに安全な形で直面することを意味します。

 まずは、呼吸法やリラクセーションなど不安感や恐怖感が生じた際の対処法を練習します。

 そして、不安や恐怖を引き起こす出来事や場面を列挙しながら、それぞれの出来事や場面に対する不安感や恐怖感の度合いを点数化します。

 点数の低いものから開始していくこともあれば、あえて高いものから開始することもあります。

 エクスポージャーの方法には、大きく分けて二つあります。

 一つは現実エクスポージャーです。

 これは、不安や恐怖を引き起こす現実的な場面に身を置きとどまってみることで直面する方法です。

 その際の負担を減らすため、治療者がその場面まで同行することもあります。

 もう一つは、想像エクスポージャーです。

 これは心の中でトラウマ記憶を思い出し語っていくことで直面する方法です。

 いずれの方法でも安全な形で無理のない範囲で、不安感・恐怖感を引き出す実際の場面やトラウマに直面していきます。

 その都度、不安や恐怖などの点数やどのような気づきがあったかを振り返りながら進んでいきます。

 こうした形で取り組んでいくと、不安や恐怖を引き起こす場面やトラウマ記憶に対する馴化(じゅんか=慣れること)が起こります。

 そして馴化と同時に、直面しても大丈夫という安心感や自信を少しずつ得られるようになり、活動できる範囲も増えていきます。

 

3.認知処理療法

 通常の認知療法と同様、認知や考え方によって感情や体の反応が異なることを踏まえ、それぞれのパターンを知ることが治療の基本になります。

 ただ、認知処理療法では、トラウマによって正常な反応としての自然な感情と、出来事に対する誤った認知・思考によって生じた必要以上な感情を分けて捉えています。

 前者の感情は、安全に十分に感じることで時間の経過に伴って回復していくのに対し、後者は認知・思考が変わらない限り続いてしまう感情です。

 そのため、認知処理療法では、まずは自然な感情は安全に感じられるように支援します。

 そして、トラウマからの回復を妨げるネガティブな認知や考え方をスタックポイントとして捉えて修正を図ることで、必要以上な感情の緩和を目指します。

 トラウマからの回復を妨げやすい認知・思考のテーマには「安全」、「信頼」、「力とコントロール」、「人との親密性」の5つがあります。

 例えば、トラウマによって「自分は今も危険に曝されている」という考え方があると、必要以上の恐怖がずっと続いてしまいます。

 このように、どのような思考・感情が必要以上な感情を引き出しているのか、5つのテーマに沿って、スタックポイントの修正を図っていきます。

4.まとめ

 今回はトラウマへの心理療法の代表的な方法として、EMDR、持続エクスポージャー療法、認知処理療法の3つについて簡単にご紹介いたしました。

 その他にも多くの方法が提唱されていますが、有効性に関しては様々な議論がなされているため、現時点ではどれが一番良いとは言い切れません。

 心理療法をどのように選んだら良いのかということについては、また追々考察を深めてお伝えできたらと思います。

 少なくとも現時点で確実に言えることは、トラウマケアのための心理療法①で解説したような、事前の準備と確認、説明が大切です。

 また、一つの方法だけでスムーズに進むこともありますが、そうはいかないこともあります。

 したがって、いくつかの方法を実施できることが望ましいかもしれません。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 次回は、昨今注目されている比較的新しい心理療法をご紹介したいと思います。