【相談事例】失恋体験によるトラウマの克服

失恋という喪失体験

 
 大切な人またはペットをはじめ、大切にしていた事物、環境などを失ってしまう体験を喪失体験と言います。

 喪失体験は、時間の経過とともに受け入れられていくことがある一方で、トラウマとして残ってしまうこともあります。

 失恋も喪失体験に含まれるため、トラウマとして残ってしまうといくら時間が経っても悲しみや苦しみが続いてしまうことの他、様々な心の悩みにつながってしまうことがあります。

 今回こちらのページでは、失恋によるトラウマを克服された事例を解説したいと思います。

 なお、事例はいくつかの実例を組み合わせた架空の事例です。

 

目次

1.【お困りごとと経緯】

2.【心理療法・カウンセリングの経過】

3.【感想】

4.【まとめと解説】

 

1.【お困りごとと経緯】

 30代女性の方。

 結婚したい気持ちがあり年齢的にも新しい出会いを求めたいが、数年前の失恋が忘れられないため、新しい出会いをためらってしまう。

 失恋した相手は、学生の頃から社会人まで付き合ってきた人だった。

 喧嘩もあったが仲は良い方だと思ったし、結婚も何となく視野に入れて付き合っているつもりだった。

 何よりもその人のことが好きだった。

 だが、社会人になってから仕事が忙しくなったためか「気持ちが冷めた」と言われ、別れ話に至ってしまった。

 しばらく関係を修復しようとしたが復縁はできなかったため、未練はあったものの新しい出会いを求めることにした。

 だが、新しい出会いを求めようと思うと、「自分は幸せになれない」と思ってしまう。

 合コンや知人の紹介などで何となく良いなと思える人もいて、良い雰囲気になることもあったが一歩距離をとってしまうし、発展することはなかった。

 そのため、新しい出会いを求める場に行こうという気持ちが持てなくなってしまった。

 自分なりに友達に相談したり、考え方を変えようとしたが何かがうまくいかない。

 それでも、自分なりの家庭を持ちたい気持ちもあるため、過去の失恋を克服したいと思いカウンセリングを受けようと思った。

 

2.【心理療法・カウンセリングの経過】

 失恋後の心の様子についてもう少し詳しくお聴きしたところ、時間が経つにつれて未練は薄くなっているはずなのに、時々夢に出てくることもあるとのことでした。

 また、別れた人と似たような男性をみると、時々その人の姿を思い出し楽しかった思い出が昨日のことのように思い出されて寂しい気持ちになるようでした。

 こうしたお話から、その時の失恋が未消化な喪失体験のトラウマとして残っていることが考えられました。

 ただ、この方の場合失恋のトラウマを克服したいと思われる一方で、彼との思い出を大切されたい想いもあり、二つの想いによって葛藤されているご様子もうかがわれました。

 そのため、最初は二つの想いを大切にするための話し合いから進めていきました。

 二つの想いが整理され始めたところで、トラウマを克服するための方法としてEMDRを希望されるようになったため実施していくこととなりました。

 すると、これまで無理に忘れようとしてきた悲しみや後悔の気持ちの他に様々な思い出に触れるプロセスがありました。

 「自分を捨てた」という彼に対する怒りもありましたが、次第に「彼もすごく悩んでいたのかもしれない」という想いに至りました。

 やがて、夢の内容や夢を見た時の受け止め方が変わり始めるようになりました。

 夢の内容や受け止め方が変わり始めるようになると同時に、「新しい出会いの中で、自分も幸せになれる」と思えるようになりました。

 最終的に新しい出会いへの怖さがなくなり、「再び新しい出会いを求めるために、再び行動を起こせるようになってきた」ということで終了に至りました。 

 

3.【感想】

「無理に忘れようとしていたけど、元カレのことは心のどこかにずっとある気がしました。

 EMDRを受けると元カレとの楽しかった思い出まで消えると思っていましたが、そういうわけではありませんでした。

 良かった思い出も悲しかった思い出も自分の経験の糧として受け止めることができるようになり、新しい人生を目指そうという気持ちになれました。」

 

4.【まとめと解説】

 冒頭でもお伝えした通り、失恋体験も他の喪失体験と同じように時間の経過とともに受け入れられていくこともあります。

 そのため、失恋体験の全てがトラウマになるとは限りません。

 ですが、今回の事例のように、失恋体験が数年経っても消化されず、今現在の自分にネガティブな影響を及ぼしているとしたら、失恋がトラウマになっていることが考えられます。

 失恋がトラウマになった場合、例えば、以下のようなお話をよくうかがいます。

・「気にしないようにしても、ふとした時に気になる」

・「気にしていないはずなのに、何年たっても周期的に夢に出てくる」

・「失恋した人と似ている人を見ると、違う人とわかっていても失恋した人と重なって話しにくくなる」

・「自分は幸せになれない、うまく関係を持てない、と思ってしまう」

などです。

 失恋を長期間気にしていると、「性格的に未練がましい」と言われることがあります。

 ですが、失恋体験が長期的に気になるのは、心の中でうまく消化されないためであって、決して「性格的に未練がましい」わけではありません。

 また、人によっては「頑張って忘れなきゃ」とか「とにかく新しい人に出会えれば、前の人は気にならなくなる」と思われる方もいます。

 確かに、新しい人と出会うことで失恋体験の消化が促進されることもあります。

 ですが、心の中で消化されていないと、一歩が踏み出しにくくなったり、新しい人と出会ってもうまくいかなかったりすることも起こりえます。

 逆に、気持ちを無理に抑えずトラウマとなった失恋体験のケアを図っていくと、過去の失恋を一つの経験として受け入れ、新たな一歩を踏み出す気持ちが湧いてきます。

 また、出会った新しい人と安定した関係を築いていける可能性を高めることができるようになります。

 もし、誰かに相談しても自分で工夫しても、過去の失恋が数か月以上気になっている方は心理療法・カウンセリングをご検討いただけたら、きっと新たな人生を目指すためのきっかけになれるかと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 なお、喪失体験に関する詳しいことは、喪失体験が心理面に及ぼす影響とトラウマ(前編)、あるいは喪失体験が心理面に及ぼす影響とトラウマ(後編)で解説しております。

 あわせてお読みいただけたら幸いです。