トラウマで悩む人へのサポートと二次受傷

二次受傷(代理受傷または外傷性転移)について 

 

 トラウマで悩む人を身近な人が適切にサポートすることは、気持ちや生活の安定につながり、治療の効果を高める作用があります。

 サポートの基本は、当事者の方のペースで話を聴くこと、また回復を急がないこと、他の誰かと比べたり、気持ちの強さとは別に考えることです。

 (詳しくは、トラウマで悩む人への声のかけ方というページをご参照ください)

 ただ、トラウマで悩む人の話を親身に聴くことは大切ですが、その際、二つの点に注意する必要があります。

 一つはバーンアウト(燃え尽き症候群)です。

 もう一つは、二次受傷の問題です。

 こちらのページでは、二次受傷とは何か、どのように起こるのかということともに、何に注意すると良いのかということについて解説していきたいと思います。

~目次~

二次受傷とは何か

同一化という心理現象

自分のトラウマが刺激される時

予防と対策

まとめ

二次受傷とは何か

 二次受傷とは、トラウマで悩む人の話を熱心に聴いているうちに、サポートをする人も心の傷を負ってしまいトラウマ反応が起こることを言います。

 サポートをする人が直接同じ体験をしたわけではないのに、あたかも自分もトラウマ体験にあってしまったような心理状態になることです。

 二次受傷は、代理受傷や外傷性転移とも呼ばれます。

 トラウマ体験による悩みを共有することで起こりうる現象ですが、代表的な要因は以下②と③の二つが挙げられます。

同一化という心理現象

 一つ目の要因として、同一化という心理現象が挙げられます。

 ここでいう同一化とは、最もわかりやすく言えば、助けたいと思う本人の立場や身になることを言います。

 同一化は、本人にとってはどのように感じられるか、どのように考えるかということを想像し適切に関わる上で必要な心の機能です。

 そのため、サポートがうまくいくかどうかは別として同一化は多かれ少なかれ無意識に起こりうるものですし、それ自体が悪いわけではありません。

 むしろ、誰かを助けたい、力になりたいと思う過程で必然的に生じるものです。

 同一化だけで、当事者のことが全てわかるわけではありませんし、当事者の感じ方とすれ違うこともありますが、同一化を全くせずに力になることは原則としてできません。

 誰かの力になりたい、本人を支えたいという思いが高まるほど、同一化も高まる傾向があります。

 あまりに高まると結果として当事者が体験した辛い出来事を、あたかも自分も体験したような心理状態になり、加えてトラウマ反応が起こってしまうこともあります。

 ただ、この際のトラウマ反応は当事者の方と似ている場合もあれば、そうでない場合もあります。

 例えば、当事者の方はトラウマ体験によって悲しみが強くなっていたとして、同じように悲しみが湧いてくることもありますが、悲しみよりもイライラ感が湧いてくることもあります。

 こうしてお伝えすると、「距離をとることが大切なのかな」と思われるかもしれません。

 確かに距離感も大切ですが、いきなり距離を調節しようとすると当事者の方にとって「距離を取られた」と思われてしまうこともあります。

 そのため、距離の調節から考えるよりもまずは同一化自体は悪いことではなく、同一化は必然的に生じうるものと理解しておくだけでも心の準備ができるはずです。

 

自分のトラウマが刺激される時

 二つ目の要因は、トラウマで悩む人の話を熱心に聴いているうちに、自分の未消化なトラウマが刺激されることです。

 同じような体験が刺激されるという場合もあれば、一見別と思われる体験が刺激される場合もあります。

 例えば、交通事故のトラウマに悩む人の話を聴いているうちに、誰かに殴られたというトラウマが刺激される場合です。

 交通事故と殴られたという出来事は一見別ですが、共通している点(例えば体への衝撃)があるため、刺激されることがあります。

 いずれにせよ、未消化なトラウマが刺激されると、話を熱心に聴いているうちにトラウマ反応や症状が出てしまうことがあります。

 ですが、サポートをする人は過去のトラウマを全てクリアにしなければいけないかというとそうではありません。

 傷を全く受けたことがないという人生はなく、誰しも何らか未消化なトラウマがあっても不思議ではありません。

 大切なことは、サポートをする人が自分の未消化なトラウマは何かということをある程度自覚しておくことです。

 そして、未消化なトラウマが刺激された場合は、できればサポートをする人も自分のトラウマのケアを図ることが、効果的なサポートの基礎につながっていきます。

 逆に自分のトラウマが刺激されたことへの自覚を持てず、無理にサポートを続けてしまうとどうなってしまうでしょうか。

 例えば、お互いを傷つけあってしまう、サポートをしているつもりがサポートをしている人のケアになってしまうことが起こりえます。

 言い換えれば、結果として誰のためのサポートなのかわからなくなってしまう、という事態に至ってしまうこともよくあります。

 「自分しかこの人の力になれない」と思い始めると、こうした事態に陥りやすくなります。

 その場合、何らかご自身のトラウマが刺激されていないか、立ち止まって考える必要があります。

予防と対策

 まずは、当事者の力になりたいという思いが高まると、同時に同一化という心理現象が起こること、また、自分のトラウマが刺激されることもありうることを理解していただくことが基本になります。

 できれば、サポートをする人は自分にとって未消化なトラウマがないか振り返る必要もあります。

 自分のトラウマについて振り返り、「この人だけの問題ではない」と考えてみるのも良いかもしれません。

 対策として最も大切なことは、サポートをする方は極力一人で抱え込まないことです。

 専門家も含めて他の人の力も借りることは、結果として当事者の方の克服や回復にもつながります。

 可能であれば、サポートをする方も自分の心の状態をメンテナンスする意味でもカウンセリングを受けられるとなおベストでしょう。

まとめ

 二次受傷は、一般的に医師や対人援助専門職に起こりやすい問題と言われています。

 ですが、専門職ではなくても起こりえる問題です。

 もしも、トラウマで悩む人の話を聴いているうちに、話の内容を頻繁に思い出すようになったり、不安感や恐怖感が高まったり、それまでは平気だったものが苦手になったり、などの問題が出てきたら、注意が必要です。

 その場合は、サポートをする人のケアも必要な時です。

 私がお聴きする限りでは、親子関係、夫婦・恋人関係、親友関係で起こりやすい印象があります。

 相手の方がとても大切な人であるほど、悩んでいるのを見ると他人事とは思えないからこそ起こりやすいのでしょう。

 親身に思えばこそ、身近な人にしかできないサポートもたくさんあります。

 一方で親身な気持ちが強いからこそ、サポートをする人も苦しくなってしまうことや限界もあります。

 こちらの記事が、トラウマで悩む人をサポートをする人にとってよりよいサポートをするためのヒントとなり、結果としてトラウマで悩む人がトラウマを克服していくためのベースを得られることにつながれば幸いです。

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。