トラウマと気持ちの強さ

 「トラウマがあっても気持ちを強く持つことが大事」、「トラウマに悩まされるのは心が弱いから」、「気持ちを強く持てばトラウマは克服できる」、「あんなにつらいことがあったのに、あの人は気丈に振舞っているから強い人。私はそうできないから弱い」-

 心理療法・カウンセリングをはじめて間もない方で、時としてこうしたお話をうかがうことがあります。

 日常でも「メンタルを強くすることが大切」というような言葉を耳にすることがあります。

 そのため、トラウマと聞くと、心や気持ちの強さ、弱さが関係していると思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 今回は、トラウマは気持ちを強く持つと克服できるのか、トラウマに悩まされることは心が弱いからなのか、というテーマでお話させていただきたいと思います。

 先に結論からお伝えすると、ある出来事がトラウマになるかどうか、トラウマの影響が大きく出るかどうかといことは、心が強いかどうかという次元だけで決まるわけではありません。

 むしろトラウマとは心が強いかどうかという次元を越えたものとお考えいただいた方が良いかもしれません。

 もし、こちらを読まれている方で、「自分の心や気持ちは弱い」と思われているとしたら、決してそういうわけではないということをご理解いただけたらと思います。

 では、下記に順をおってお話させていただきます。

 

~目次~

①心の強さとは

②トラウマと心の状態の捉え方

③トラウマへの対処法を考えるための基礎

④まとめ

 

①心の強さとは?

 まず、そもそも「心が強い(弱い)」とはどういうことでしょうか。何をもって「心が強い(弱い)」ことになるのでしょうか。

 正直なところ、何をもって心が強いということなのかについて統一した定義はできないと思っていますし、人それぞれで価値観で変わりうるものでもあるでしょう。

 例えば、「苦しいことがあっても気にせずにいられること、我慢してすべきことができること」とか、「辛いことがあってもすぐ立ち直れること」とか、「プレッシャー場面でも普段通りのパフォーマンスを発揮できること」など、さまざまなお話やイメージを耳にします。

 また、心理学的にも議論されているところで、専門的な言葉を挙げると、例えば「ストレス耐性」、「自我強度」、「レジリエンス」、という概念が提唱されています。

 それぞれの言葉の細かな違いや意味は置いておくとして、要は、辛いことや欲求不満なことがあって気持ちが落ち込んでも持ち直せるかどうか、を示すために考えられた概念です。

 とはいえ、「心が強い(弱い)」ということには人それぞれの考え方もありますし、学術的にも普遍的で統一された定義はおそらくできないでしょう。

 ですが、少なくとも心が強いかどうか、ということだけでトラウマやトラウマの影響を全て説明できるわけでもありません。

 そのため、トラウマに悩まされることは「気持ちが弱いから」ということにはなりません。

 

②トラウマと心の状態の捉え方

 確かに、定義の仕方によっては、「心の強さ(弱さ)」を表わすことができるように思えるかもしれませんし、その人のお話を聴いていると、「こういう部分はこの人の強いところだな」とか、逆に「ここは苦手なのかな、弱点なのかな」と思うこともあります。

 また、今その人にとってどの部分が弱まっているかとか、強みや支えになっているかなど、その人の状態像としての見立てをもつこともあります。

 加えて、弱点になっているとしたら、弱点になってしまった経緯やメカニズムについても考えます。

 ですが、そうした状態像やメカニズムに関する見立ては、お話を聞いている時点のものですし、あくまで部分的かつ仮説的なものです。

 したがって、「その人の心が全体的に強いか弱いか」ということではありません。

 その人の心が強いかどうかではなく、弱点もさながらその人の強さは何か、弱点が見えたとしてもなぜそうなったのかということを経緯に基づいて考えていくことが大切です。

 

③トラウマへの対処法を考えるための基礎

 少しお話が冒頭に戻りますが、心や気持ちの強さには人それぞれ価値観があると書かせていただきました。

 そのため、「気持ちを強く持てばトラウマは克服できる」と思われることが絶対いけないわけではないとも思っています。

 実際に、そう考えることによって、自分の状態を保てたり、すべきことができたりすることもあるでしょう。

 ですが、それでいつもうまくいくとは限りません。

 いくら気持ちを強く持とうとしても、どうにもならないことが出てくることはよくあります。

 言い換えれば意志の力だけでいつでも心身をコントロールできるわけではありません。

 「我慢して耐えれば」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、我慢にも限界があります。

 限界になると、例えば体の症状になって現れるなど、別の形で悩みが出ることもあります。

 そのため、我慢したり自分に言い聞かせたりして持ちこたえている状態は、原則としてトラウマを克服した状態とは言えません。

 いずれにせよ、気持ちのもちようでどうにもならない場合、トラウマが心や体に残るメカニズムを少しずつ理解していくことが次の対処方法を考える基礎になります。

 なお、気持ちのもちようでどうにかならないのに、その後も気持ちのもちようだけでどうにかしようとすると、かえってどんどん深刻になってしまうことがよくあります。

 例えば、「忘れよう」とすればするほど思い出しやすくなったり、意識的、無意識的にそこにエネルギーが奪われて別のことに気が回らなくなる、といったことなどです。

 言うなれば、自分なりに良くしようとしているはずなのに、かえって悩みが深まってしまうという皮肉な状態に陥ってしまうです。

 そのため、もし気持ちの持ちようだけでどうにもならない場合、まずは、その方法をあえて止めてみて様子を見てみるということも一つの手段となりえます。

 ただ、そうは言ってもそれが簡単にできたら苦労しないでしょうし、万事良くなるかというとやはりそうとも限りません。

 ですが、これまでのトラウマへの捉え方やトラウマへの対処方法のあり方を見直すことは、新たな道を見つけるための第一歩にはなりえます。

 そしてトラウマだけではなく、心の悩みとどう向き合い、対処していくと良いかということにもつながります。

 

④まとめ

 以上、トラウマと心(気持ち)の強さは関係あるのかということについてお伝えいたしました。

「心の強さ」については、人それぞれの考え方があり、心理学においても議論はされていますが、統一した定義はできません。

 ある出来事がトラウマになるかどうか、その影響が心の悩みとしてどのように現れるのかということは、心が強いかどうかという問題だけで理解できるものではないのです。

 「気持ちを強くもつ」という考え方でトラウマによる辛さを我慢することで乗り切れることもありますが、気持ちの強さや我慢だけで対処できない場合は、トラウマのメカニズムを理解することが他の方法を考えていくために大切になります。

 過去のトラウマや心の傷で悩まれている方にとって、その克服に向けたヒントになれれば幸いです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。