トラウマをケアすることのメリット

「トラウマをケアしても自分がどうなれるのか想像できない」、「そもそもトラウマが解消されるとはどういうことなのか」-

 こうした疑問にお応えすべく、今回は、トラウマがケアされるとはどういうことなのか、トラウマがケアされるとどうなるのか、ということについてお話したいと思います。

 大まかな内容は、ホームページの<こんな方に>というページのトラウマがケアされた場合のメリットという部分に記載しておりますので、ご覧いただけたら幸いです。

 

~目次~

トラウマがケアされるとは

トラウマケアと自分に対する見方

③気にならなくなったら、ケアされたということされたということ?

トラウマがケアされた場合のメリット

⑤おわりに

 

①トラウマがケアされるとは

 まず、トラウマケアとは、嫌な出来事にまつわる記憶や思い出をなかったことのように消す、ということではありません。

 トラウマがケアされるとは、一言で言えば、嫌な出来事の記憶をたまに思い出すことはあっても、自然と気にならなくなるということです。

 もう少し詳しく書くならば、以下の2点です。

 

(1)嫌な記憶や思い出を思い出しても自然と冷静な気持ちでいられること、嫌な記憶があっても過去のこととして自然と気持ちがおさまること、

(2)現在の自分にネガティブな影響がなくなること、さらに自分の肯定的な側面にも気がつけるようになっていくこと、

 

 この2点がトラウマがケアされるということです。

 嫌な出来事の記憶の収まりどころが心の中で見つかる、異質なものとして残っていた思い出が消化されると表現することもできるでしょう。

 ここでご注意いただきたいことは、「自然と()」です。「辛いことを思い出しても強い気持ちで我慢できるようになった」というのは、原則としてケアされたとは言えません。

 また、「自分のポジティブな面を頑張って思い出して、自分に言い聞かせている」という状態もトラウマがケアされた状態とは言えません。

 

 

トラウマケアと自分に対する見方

 トラウマが心に強く残っていると、自分に対する見方がネガティブな方向に傾いてしまいやすくなります。

 なぜなら、トラウマが残っていると、トラウマ体験はつい最近のことのように思えてしまい、トラウマ体験にかかわる記憶が心の中で大きな比重を占めてしまうからです。

 そして、ネガティブなことが心の中で大きな比重を占めていれば、その記憶に注意が向きやすくなります。

 そうなってしまうと、ポジティブな記憶を思い出しづらくなり、自分にも肯定的な側面があるということに気が付きにくくなってしまいます。

 それどころか、ネガティブな出来事同士が結びつき、ますますネガティブになっていく、という悪循環に陥ってしまうことも起こりえるようです。

 トラウマがケアされると、トラウマ体験に関する記憶の比重は小さくなります。そのため、自分のポジティブな側面に気がつきやすくなります。

 

気にならなくなったら、ケアされたということ?

 「思い出しても自然と気にならなかったら、そのトラウマはもうケアされているのかな」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 確かに、「思い出しても気にならない」というのは一つの条件ではありますが、絶対条件ではありません。

 トラウマの影響は意識的な面と無意識的な側面があります。

 心に浮かんで自然と気にならない、というのは意識的な面での影響が少なくなっていることを示す可能性の一つでありますが、必ずしも無意識的な影響もないとは限りません。

 無意識的な影響とは、トラウマ体験の影響に気づかずに心や体に残っているということです。無意識ということで根拠や原因を考えても気がつきにくいものです。

 また、心の無意識という面に着目すると、人の心には良くも悪くも”防衛機制”という、心のバランスを保つために無意識に働く機能があります。

 無意識の機能であるため、何気なく日々を過ごしているとほとんど気づかないことの方が多いです(ちなみに防衛機制にはさまざまな種類がありますが、長くなってしまうので詳細は省きます)

 ”防衛機制”そのものは絶対的に悪いわけではありません。

 なぜなら、”防衛機制”は適度に機能しているならば日常をよりよく過ごすための潤滑油になりえるからです。

 ですが、過度になると、何らかの支障を生んでしまいます。

 トラウマ体験で言うと、辛い体験がそのままになっていると、苦しい気持ちが続いてしまいますが、防衛機制が働くと応急処置的に苦痛が緩和されたり、感じにくくなったりします。

 ひとまず苦しい気持ちが感じにくくなれば、当面しなければいけないことに取り組めるようになることもあるでしょう。

 ただし、防衛機制による苦痛の緩和はあくまで応急的処置的な機能であることが多いため、場合によると、いずれ何らか無理が出てしてしまうこともあります。

 その時どうなるかというと、悪夢として現れる、理由はわからないけどある事や物が怖い、何らかの身体反応が出るという形で現れやすいようです。

 防衛機制が働いていると、トラウマ体験が気になっていないように思えてしまうため、トラウマ体験による影響とは考えにくくなります。

 

トラウマがケアされた場合のメリット

 ここまでのお話を踏まえつつ、以下、実際にカウンセリングや心理療法を通してトラウマケアを受けられた方のお話に基づいて、トラウマがケアされた場合のメリットの一例をご紹介します。

 誰もが同じ体験をするというわけではありませんが、比較的多くいただいたお声をまとめさせていただきました。

 

(1)自分も含めて人に対して肯定的に思えることが増えた。

(2)辛かったことや嫌だったことを思い出しても煩わされることがなくなり、「あんなこともあったな」と思えるようになった。

(3)忘れたわけではないけど、思い出す頻度がかなり減った(夢に出なくなった)

(4)それまでできないと思いこんでいたことができるように思えてきた。あるいは達成するためには何が必要かと考えられるようになった。

(5)体の反応(例えば動悸など)がなくなった。あるいは多少あっても受け流せるようになった。

(6)それまで怖かったこと、不安に思っていたことに対して平気と思えるようになった。

(7)自分の気持ちに気づけるようになった。そのため、気持ちを冷静に伝えられるようになり、人間関係が安定し始めた。

(8)逆に苦手な人は苦手と思えるようになり、うまく距離をとることができるようになった。

(9)人間関係で、信じたいと思う人を信じられるようになった。また、パートナーや子供、親など愛したいと思う人を愛せるようになった。

(10)他人の反応や態度、言動に過敏にならなくなった。

 

 なお、「トラウマがケアされてしまうと今の自分が変わってしまうのではないか」という心配を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

 実際の心理療法・カウンセリングの中でこうしたご質問をいただくことも時々あります。ですが、今の自分が180°変わってしまうということはありません。

 

おわりに 

 今回はトラウマがケアされることとそのメリットについて解説し、一例を挙げさせていただきました。

 想像しにくいところや「この場合はどうなの?」という疑問もあるかもしれません。

 ご不明な点がございましたら、メールでのお問い合わせページからご質問をいただけたら幸いです。

 最後までお読みいただきありがとうございますした。

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。