子どものことは大切に思っているはずなのに、ちょっとしたことでつい感情が爆発して叱りすぎてしまうというご相談はよくうかがいます。
あるいは、子どもが何をしたわけでもないのに、可愛くないと思ってしまって冷たくしてしまうのが辛いというお話もよくうかがいます。
こうしたお話の背景には、日常のストレスが原因の場合もありますが、子ども頃の親子関係のトラウマが原因の場合もあります。
前者の場合はストレスがなくなれば解消されることも多いですが、後者の場合はストレスがなくなっても解消されないことの方が多いです。
今回は、子育て中の方から特に多くうかがったお話の代表例を取り上げ、解説したいと思います。
~目次~
2.【事例2】~子どもに対する否定的な言動が癖になっている~
1.【事例1】~子どもを叱りすぎてしまう~
1-1【お困りごとと経緯】
30代女性、主婦の方。
もともと上の子に対して良い子を求めすぎて叱りやすかった。
二人目の子が生まれてから負担が増えたせいか、余計叱りやすくなった。
後悔して怒りを抑えるための方法をネット調べたところ、呼吸の調整方法や考えた方を修正する方法などを知り実践しようとするがうまくいかず、叱りすぎを繰り返してしまう。
子どもがわがままを言っている姿を見ると、「まだ小さいから」と自分に言い聞かせる一方で、自分はわがままを言えず我慢してきたのにと思う。
「自分の体験とこの子たちは違う」と思うし、「自分の母のようにすぐ叱る母親になりたくない」と思っているのに、気がつけば母のようになっている。
なりたくない母のようになっていると思うと自己嫌悪が高まり、余計感情的になってしまう。
1-2【心理療法・カウンセリングの経過】
以上のお困りごとのため、心理療法・カウンセリングを開始されました。
お話をうかがうと、幼少期の親子関係において度々叱られていたとのことでした。
そうした体験がご本人様も気づかないところでトラウマとして残っており、現在の子育てに影響していることが考えられました。
そのため、トラウマの影響を小さくする方法としてEMDRという心理療法を中心に進めていくこととなりました。
実施を重ねていくごとに、母に対して満たされたなかった思いがある一方で、母が言っていたことは正しいと思いたい気持ちが混在していることなど、様々な思いに触れる過程がありました。
そして、「自分の中にあった母に対するいろいろな気持ちがまとまって」いかれるにつれ、「母と自分は別」と思われるようになりました。
そうした過程を経て感情的になることが少なくなり、子どもに対して素直な気持ちで接することができるようになられました。
2.【事例2】 ~子どもに対する否定的な言動が癖になっている~
2-1【お困りごとと経緯】
30代女性、働いている方。
出産後1年は休職していたが、その時期は問題なく過ごしていた。
復職してから子供に対して嫌味なことを言うなど、否定的な言動が癖になってしまった。
またこどものちょっとした言葉や行動、態度にイライラするようになりきつい口調であたってしまう。
気がつくと「自分の子は可愛くない」という思いが強くなる。
当初は、仕事のストレスによりうつ的になっているのかと思い、メンタルクリニックに受診。再び休職することとなった。
服薬の効果もあってか、声を荒げることはなくなったものの、子どもに対する否定的な気持ちがなくならない。また、可愛いと思えない。
生理のせいかとも思ったが、どうも違う。
2-2【心理療法・カウンセリングの経過】
生い立ちを確認したところ、幼いころ母親からよく否定的なことや嫌味なことを言われることが多かったようでした。
一つ一つは覚えていないものの、言われ続けて「自分は普通じゃない」と強く思うようになったそうです。
ご本人様としては「昔のことだからもう気にしていないはず」とお話されていました。
ですが、生い立ちや親子関係の話になると、「昔のことだから気にしてない」とお話される一方で悲しい顔をされ、また、両手を胸のそばにもってくる仕草が見られました。
そして、自分の子どもを見て感情的になったとき、胸のあたりがぎゅっと締め付けられるような嫌な感覚があるとお話されました。
こうしたことから、幼少期のことを思い出した時の感覚と現在自分のこどもを見た時の体の感覚がつながっていることが考えられました。
事例1の方のようにEMDRをご説明したところ、ご希望されたため実施することとなりました。
EMDRを進めていくにつれて、胸のあたりに感じられるぎゅっと締め付けられる嫌な感覚が薄れていき、それに伴い感情が揺さぶられにくくなっていきました。
そして、子どもに対する否定的な気持ちがなくなり、「素直にかわいいと思えるようになった」とのことでした。
3.悩みが改善する過程で共通する感想
子どもの頃の親子関係のトラウマが子育ての悩みに影響している場合、心理療法・カウンセリングを進めていくと、以下のような感想をうがかうことが多いです。
・「親にわかってほしくても言えず、蓋をしてきた気持ちがたくさんあったことに気がついた」
・「親に対する複雑な気持ちがまとまり、親と今の自分や子どもを区別して考えられるようになった」
・「自分の本当の気持ちに気がつけるようになり、受け止められるようになった」
などです。
逆に言うと、自分の我慢してきた気持ちに気がつけず、過去の自分や親と今の自分と子どもが混ざってしまった時、子どもに対して複雑な気持ちが起こりやすくなることが考えられます。
4.まとめ
二つの事例から過去の親子関係がトラウマとして残ると、子育てに影響しうることがお分かりになるかと思われます。
トラウマについて思い当たるかどうかは別として、自分の親子関係での出来事がトラウマとして残り、何らかの形で今の子どもとの関係に反映されてしまうことはよくあります。
特に、子どもに対して感情的になることや、否定的になることが繰り返されている場合、親子関係の中でのトラウマや蓋をしてきた気持ちが多く残っているのかもしれません。
その場合、トラウマをケアすると自分にとって何がネックになっていたのかに気がつくことができ、それと同時に子どもに対する気持ちも安定するケースが多いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
子育て、育児の中で意図せぬ気持ちになってしまって悩まれている方にとって、ささやかながらであっても一つのヒントになれれば幸いです。