子どもの頃の親子関係におけるトラウマの影響

 今の自分の心の悩みに影響を及ぼしやすいテーマの一つに、子どもの頃の親子関係におけるトラウマがあります。

 子どもの頃の親子関係のトラウマをケアすれば心の悩みの全てが改善するわけではありませんが、過去の親子関係のトラウマが根強く残っているがために、心の悩みが深くなってしまっているというお話も多くうかがいます。

 近年、“毒親”という言葉も見られるようになりましたが、幼少期に限らず過去の親子関係のトラウマやストレスの影響によって苦しんでいる方も多いのではないでしょうか。

 今回は、子どもの頃の親子関係においてトラウマとなりうること、そのトラウマが現在の自分に及ぼしうる影響、さらに、トラウマ記憶の再体験についてお伝えしたいと思います。

 

目次

子どもの頃の親子関係でトラウマとなりうること

 (1)虐待または不安定な家庭環境

 (2)厳しい躾、教育

 (3)トラウマって考えても良い?

親子関係のトラウマの影響

 (1)自己認知への影響

 (2)再体験

まとめ

 

子どもの頃の親子関係でトラウマとなりうること

(1)【虐待または不安定な家庭環境】

 代表的には虐待を受けた体験、自分が虐待を受けなかったとしても家族内の誰かが暴力を受けているのを日常的に見て過ごしてきたこと、などがトラウマとなりえます。

 また、親に頼りたくても家にいないことが多く頼れなかったということもトラウマとなりえます。

 

(2)【厳しすぎる躾、教育】

 家庭環境一見平均的であるものの、例えば、体罰などの厳しすぎる躾を受けていたことがトラウマとなりえます。

 体罰はなくても勉強や習い事の成績でいつも怒られたり、否定されるようなことを言われ続けてきたことなどもトラウマとなりえます。

 

(3)【トラウマって考えても良い?】

 お読みになられて「虐待や暴力はトラウマになるのはわかるけど、叱られたり、否定されることを言われるくらいがトラウマになるの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 また、人によっては「虐待を受けたわけではないから、自分にはトラウマはない」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 確かに、客観的には暴力や虐待の方が出来事としては重大でしょう。

 それと比べると、例えば「きついことを言われるのは、誰にでもあることだからトラウマになるの?」と思われることも自然です。

 ですが、トラウマについて自分と他の人を比べてしまう心理というページでもお伝えしましたが、客観的な出来事の重大さだけでトラウマが重いか軽いかを比較することはできません。

 比較してしまうと本質的な解決から遠ざかってしまうことも多くありますし、場合によっては新たな傷つきにつながることもあります。

 出来事の重大さを全く無視するわけではありません。

 ですが、大事なことは、ある出来事がその人にとってどのように体験されたのか、そしてその出来事の記憶を現在の自分がどう捉えているか、ということです。

 こうしたことによって、現在の悩みへの影響が異なってきます。

 そのため、「虐待があったからトラウマが重い」、「言葉で言われた程度だからトラウマの影響は軽い」、「直接暴力を見たからトラウマが重い」、「暴力の場面を見たわけではないからトラウマが軽い」ということは言えません。

 また、客観的な出来事の重大さで症状の重さが絶対的に決まるわけでもありません。

 

親子関係のトラウマの影響

(1)【自己認知への影響】

 親子関係のトラウマが最も影響しやすく、また、現在の悩みにつながりやすいのは、自己認知、つまり自分への見方です。

 結論からいうと、自己認知のあり方が否定的な方向に偏りやすくなってしまいます。

 トラウマによる自己認知とは、ある辛い出来事を思い出したとき、自分がどのような人と思うのか、というものです。

 例えば、親から完璧を求められ、完璧にできないと叱られ続けていたということがトラウマとして強く残っている場合、「完璧でない自分はだめな人だ」という形に至りやすくなります。

 この他にも否定的な自己認知の一例として、「私には価値がない」、「私は見捨てられて当然だ」、「私は何があっても我慢しなければならない」、などが挙げられます。

 こうした否定的な認知は、成長と同時にトラウマと強固に結びついてしまって心の悩みにつながることは多くあります。

 トラウマによって否定的な認知が強くなっても、自分に対して肯定的に思えることもあるかもしれません。

 肯定的な面と否定的な面をバランス良く見ることができれば良いのですが、トラウマの影響が大きく残っていると、否定的な面に目が向きやすくなります。

 そのため、否定的な自己認知を中心に物事を捉えやすくなってしまいます。

(2)【再体験】

 親子関係のトラウマに限らず、トラウマが克服されていないと再体験が起こりやすくなります。

 再体験とは、過去の辛い出来事を思い出したくないのに急に思い出してしまったり、夢に出てきてもう一度苦しい気持ちになることを言います。

 突然思い出されることは侵入的想起とも呼ばれます。

 単に思い出すだけではなく、あたかもトラウマを受けた時点に戻ったかのような感覚になることはフラッシュバックと呼ばれます。

 侵入的想起もフラッシュバックも再体験といえます。

 子育てにおける悩みを例に挙げると、子どもがちょっと口応えするのを見た時、子ども時代に自分の気持ちをちょっと伝えただけでひどく叱られることが多かった、という体験が一気に思い出されて辛い気持ちになる、などです。

 子育てに限らず、日常の人間関係や出来事が引き金となってかつての親子関係のトラウマが蘇ることもあります。

 あるいは記憶として思い出さなくても、再体験による影響が考えられることもあります。

 例えば上司から少し注意されただけで感情的になりやすいという場合に、無意識に親子関係のトラウマが再体験されている可能性があります。

 なお、トラウマとなったことを思い出さないようにしたり、忘れようとしたりしても、かえって思い出しやすくなってしまいます。

 よしんば、何らかの方法で思い出さないようにできたとしても、別の形(例えば体の症状に出るなど)でトラウマの影響が現れてしまうことがしばしばあります。

まとめ

 親子関係においてトラウマになりうることは虐待だけとは限りません。

 叱られたことや否定された体験もトラウマとなりえます。

 トラウマとなった出来事は克服されずに残っていると、自分に対する見方が否定的な方に傾きやすくなってしまいます。

 また、思い出したくないのに思い出されて辛くなり、現在の出来事を冷静に捉えることが難しくなることもあります。

 

 今後は子どもの頃の親子関係におけるトラウマがどのような心の悩みと結びつきやすいのか、またトラウマによる心の悩みを克服するために何が必要か、ということを少しずつお伝えしていきたいと思います。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

 今後ともよろしくお願いいたします。