身近な人ができる基本的な声のかけ方
「身近な人でトラウマで悩んでいる人がいます。どのように声をかけたら良いでしょうか?」。
「とある出来事があって以来、めっきり変わってしまった人がいますがトラウマの影響でしょうか。もしトラウマの影響があるとしたら言ってはいけないことってありますか?」。
自分ではなく身近な人がトラウマで悩んでおり、サポートで迷っている方からこうしたご質問をいただくことがあります。
トラウマで悩んでいる、あるいはトラウマの影響が出ていそうな人に対しては、身近な人のサポートが非常に重要です。
トラウマの内容や影響は人ぞれぞれ様々ですが、基本的なことは共通しています。
そこで、トラウマで悩む人への声のかけ方に関する基本的なことを解説したいと思います。
効果的な声のかけ方をわかりやすくお伝えするために、「残念な声のかけ方」を対比例として挙げながらお伝えしたいと思います。
「残念な声のかけ方」とは、良かれと思ってのことで悪気はないものの、かえって当事者の方を辛くさせてしまう可能性が高い助言、という意味です。
身近な人がショックな体験をしたことを聴くと、つい良かれと思って気持ちが軽くなりそうな助言をしてしまうこともあります。
その人の力になりたい、と思う気持ちは何よりも大事です。
その気持ちをよりよく活かしていただくためのヒントになれれば幸いです。
①残念な助言その1~「もっと辛い思いをした人がいる」
当事者の方が体験した出来事について、少しでも軽く思えるようにと思うとつい言いたくなる言葉です。
ですが、トラウマ体験は原則として比較することはできません。あくまで、体験した人がその出来事をどう受け止めるかという視点で考えることが大切です。
もしも当事者の方が、「こんなことくらいで」と話しながら辛そうにしていたら、起った出来事を比べてトラウマ体験になるかどうかは関係ないということを、押し付けにならない程度で伝えることが大切です。
②残念な助言その2~「あなたは〇〇だから良かった」
例えば、「あなたは被害を受けていないから平気だよ」、「あの人たちは現場にいて被害を受けたし、その光景を見ちゃったからね。あなたはその場にいなかったから良かった」という言葉がよくある例です。
一見すると理屈に合いそうな話なのですが、①と同じく起こった出来事の違いだけでトラウマになるかどうかが決まるわけではありません。
状況の違いもまたしかりです。
実際に被害を受けたかどうか、目撃したかどうかということで、トラウマの重さが変わる、その後の影響が変わるということではありません。
その場にいなかったとしても、自分が慕っている人が苦しい思いをした、ということでそれがトラウマ体験になることもあります。
時折、被害を直接受けた人は順調に回復したのに、その話を聞いた人の方が尾を引くという事例もあります。
親子関係が好例かもしれません。
例えば事故にあった子供は回復して何事もなく元気に過ごしているものの、親の方はその時のショックが忘れられないというお話です。
もちろん、こうした例は親子関係に限ったものではないでしょう。
①と同じく押し付けにならない程度で、出来事やその時の置かれた状況の違いでトラウマ体験になるかどうかが決まるわけではないことを伝えることが大切です。
③残念な助言その3~「いつまでも〇〇していたらだめだ」
多い例としては、「いつまでも引きずっていてはいけない」、「いつまでも泣いているのは良くない」などでしょうか。「早く忘れて立ち直って」、「先のことを考えようよ」などです。
結論からお伝えすると、回復までのペースは人それぞれです。長引いてしまう人もいれば、そうでない人もいます。
ただし後者の人に対しては注意が必要です。
一見、何事もないように振舞っていても、感情が麻痺していることや出来事に関する記憶が切り離されている可能性もあるためです。
だからといって、過剰に心配するのも当事者の方にとって負担になってしまう可能性もあります。
ですので、基本は、回復までのペースは人それぞれであること、無理に忘れようとしなくても良いこと、思い出して話したくなったら聞かせてほしいとお伝えすることが大切です。
④残念な助言その4~「気持ちを強くもって」
叱咤激励のつもりに伝えたことが、逆に当事者の方を追い込んでしまうことがあります。
トラウマに悩むこと=気持ちが弱い、ということではありません。
また、気持ちを強く持てば克服できるとも限りません。
確かに「気合で乗り越えた」という経験談を耳にすることがあります。
ですが、いつでも、どのような場合でも気持ちや精神力でどうにかできるわけではありません。
当事者の方によっては、トラウマで悩むことは気持ちが弱いからと思いこんでしまうこともあります。
その場合は、やはり押し付けにならない程度で、トラウマに悩むことは気持ちが弱いということではないことをお伝えすることが大切です。
可能であれば、トラウマの特徴と影響をお伝えすることも効果的かもしれません。
⑤残念な助言その5~「それも一つの経験だよ」
当事者の方が起こった出来事をポジティブに捉えると辛さが減るのではないかと考えてしまうと、このような言葉を伝えてしまうことがあります。
似たような言葉として「これからは〇〇に気をつけると良い」なども、よく耳にする例です。
これらの言葉自体が悪いわけではありません。
ただ、タイミングを誤ると納得してもらえないばかりか、追い込んでしまうこともあります。
逆に、当事者の方によっては、無理に「良い経験になった」と自分に言い聞かせて納得させようとして辛くなっているということもあります。
当事者の方が「良い経験になった」と話している場合は、ひとまず受け止めましょう。
その上で、「もし『良い経験になった』と考えようとして、しっくりこないようだったとしたら無理しないで」と一言そえておくと良いかもしれません。
⑥まとめ
もしトラウマで悩む人が身近にいるとしたら、すぐにどうにかしなければと思わず、長い目で見ること、見守りながらその人のペースで話を聴くことが大切です。
ポイントは、
(1)起った出来事や他の人の体験とは比べられないこと、
(2)回復までのペースは人それぞれであること、
(3)トラウマで悩むことはその人が弱いということではないこと、
の3点です。すぐに納得は得られないかもしれませんが、こちらの3点を参考程度に伝えてみることも大切です。
とはいえ、身近な方にとっては焦る気持ちが湧いてきても不思議ではありません。
もしどうしても焦る気持ちを抱えきれなくなったら、専門家を含めた第三者へのご相談もお考えいただければと思います。