トラウマケアのための心理療法①【共通して必要な前準備】

 トラウマケアのための心理療法・カウンセリングの方法は、新旧問わず数多くの種類があります。

 それぞれの方法によって進め方は異なりますが共通点もありますし、また、どのような方法であってもトラウマケアに取りかかる上で、必要な確認事項や準備があります。

 今回は、トラウマケアのための方法において共通して必要な確認事項や準備について解説したいと思います。

 

目次 

1.お困りごとと経緯の確認

2.生い立ちの確認

3.状態像の見立てと現在の状況の把握

4.トラウマに関する情報の提供

5.目標の確認と方法の選択

6.安定感の確立とリソースの活性化

7.まとめ



1. お困りごとと経緯の確認

 まずは、お困りごととその経緯の確認が必要です。

 どのようなトラウマがあるのかを確認することも大切ですが、トラウマによってどのようなお困りごとが生じているのかを確認することも大切です。

 逆に言えば、今のお困りごとがどのようなトラウマによって生まれたのかということの把握が大切です。

 そして、トラウマやトラウマによるお困りごとが大体いつ頃から、どのようなきっかけで、また、どのような場面で生じやすいのか、という経緯の把握も必要です。

 経緯を確認することで、お困りごとの波や、ご本人様のお困りごとに対する対処法の把握にもつながります。

 ご本人様の対処法を把握することは、どのような方法が効果的なのかを知るための手がかりにもなりえます。

2.生い立ちの確認

 場合によっては、生い立ちの確認も必要です。

 幼少期の家族関係や学校での人間関係によるトラウマが今の悩みに影響していることもあるからです。

 特に自己認知(自分に対する考え方)は、幼少期の家族関係や学校での人間関係の体験によって影響されていることもあります。

 例えば、厳格すぎる両親から常に叱責されていた、学校の中でいじめを受けていた、という体験によって「自分は何をしてもだめだ」、「自分は弱い」など否定的な自己認知が根付いてしまうこともあります。

 否定的な自己認知が強すぎることで生じているお困りごとの場合、生い立ち上のトラウマからケアすることが必要なこともあります。

3.状態像の見立てと現在の状況の把握

 お困りごとと経緯、生い立ちを確認しつつ、状態像と現在の状況の確認が必要です。

 例えば、トラウマを受けた直後の場合は、いきなり心理療法を実施するよりも時間をかけながら心の安定化を図ることが必要になります。

 不安定な状態の中でいきなり心理療法を導入してしまうと、より不安定になってしまう可能性があるためです。

 また、トラウマによって重い精神症状や身体症状が現れている場合、心理療法・カウンセリングよりもお薬による治療など医学的な治療を優先した方が良い場合もあります。

 現在の状況については、今現在安全が確保されているかどうかの把握が必要です。

 例えば、現在進行でDVやいじめなど暴力の脅威が続いているとしたら、トラウマケアよりも先に環境面で安全を確保することが優先されます。

 この場合、トラウマケアのための心理療法よりも社会福祉的な支援機関での相談が必要です。

4.トラウマに関する情報の提供

 目立った精神症状や身体症状がなく、ある程度安全が確保されていることが確認された場合、いよいよ心理療法・カウンセリングを導入するための準備を始めます。

 まずは、その方の状態像やお困りごとに基づいてトラウマに関する情報や知識の提供を行います。

 情報や知識があれば悩みが解消するわけではありませんが、情報や知識を得ることは余分な不安や混乱を防いだり、和らげたりする作用もあります。

 また、情報や知識を得ることは、自分に起こっていることを客観的に把握することや、今後起こりうることの予測に役立ちます。

5.目標の確認と方法の選択

 お困りごとによって異なる面もありますが、共通する大きな目標は過去のトラウマの影響を解き、今のお困りごとを緩和すること、よりベターな生活を過ごせるようになることです。

 全てのトラウマをケアしなければいけないわけではなく、今のお困りごとに影響しているトラウマのケアを図ることが基本になります。

 また、新たな未来において何か悩みが生まれたとしても、その悩みに対する対処能力や自己回復力を高めることも、共通する大きな目標の一つです。

 その上で、具体的な方法や進め方を話し合いながら決めていきます。

 すぐに決められる場合もあれば、そうでない場合もありますし、最初に決めた方法だけで進められる場合もあれば、途中で別の方法を実施した方が良い場合もあります。

 ただ、どのような方法であっても万能な方法はなく、回復の過程やトラウマとの向き合い方は人それぞれであること、またその方の状態や希望も踏まえて柔軟に考えていくことが大切です。

6.安定感の確立とリソースの活性化

 トラウマケアを図る場合、どのような方法であっても、原則としてある程度トラウマに触れる過程があります。

 トラウマに触れれば、誰でも大なり小なり心が揺れて不安定になることもあります。

 そのため、事前に安定感を確立しておくことが大切です。

 安定感を確立しても完全に予防できるわけではありませんが、最初に安定感を確立することで心の揺れをある程度和らげることができます。

 また、リソースを活性化することも大切です。

 リソースとは、一言で言えばその人が持っている自己回復力の源となる資源のことを言います。

 リソースには例えば、趣味や好きなこと、安心感を感じられる場所や出来事、過去のポジティブな体験などがあります。

 トラウマが心の中で大きいと、どうしてもリソースに目が向きにくくなります。

 そのため、リソースを確認し活性化を図ることでトラウマケアを行う上での耐久力にもなりますし、ともすればトラウマを緩和するための手がかりにもなりえます。

7.まとめ

 トラウマケアのための心理療法は数多くありますが、どのような方法であってもトラウマケアを安全に、また効果的に進めていくためには、共通して必要な前準備や確認事項があります。

 まとめると、その方のお困りごとや経緯(生い立ち)を確認しつつ、状態像や置かれた状況を把握した上で心理療法・カウンセリングが適切かどうかを見極めます。

 適切と考えられた場合、まずはトラウマに関する必要な情報をご提供します。

 そして、目標を確認し方法を選択した上で、安定感の確立とリソースの活性化を図ります。

 方法を選択する際には、その方の状態や希望を踏まえて柔軟に考えていくことが大切です。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 次回は、トラウマケアに関する具体的な心理療法についてご紹介したいと思います。